こんな依頼ありました「 マンハッタンで会いたい」vol.4

早朝から張り込みをしているのだから、彼女はキャッチできるはず。

 

 

そう思い込んでいた。そう思って、ふと思った。最大の問題点は、彼女の写真がない事だ。

でも、アメリカ人とシェアしているわけだから、ドアから出て来た女性が日本人ならば、それは彼女に違いない。

浮気調査で、調査中に考えてしまうのが、〝本当に浮気してるんだろう?〟という事。

 

「浮気、してるのかな?」

 

H君が、よりによって不安になるような事を呟く。

「やめてよ。」私は言った。「浮気しないのなら、それはそれで事実じゃない?」

 

「そうだけど。」

 

Hは、横目でチラリと私を見て黙りこくった。

「…だよね。」暗黙のHに私は言う。「24時間見てるわけじゃないものね…。」

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

今回のような、決められた予算の中で調査をすると、全てが私たちに委ねられているから、そこが難しいところなのだ。

 

依頼者が、〝何処何処で張込みを始めて、何時から何時まで〟と決めていてくれてくれると、その時間帯以外の時間帯については、私たちには不可抗力という事になる。

 

けれど、全てを委ねられてしまうと、そこが非常に難しい。依頼者の気持ちはわかるけれど、ある程度、私たちが調査する時間帯とかも決めないと、経費もかかるし、正直な事をを言って見合った報酬にならない。

 

とはいえ、正論を言えば、受けた以上は、それもひっくるめて責任があるというわけで、文句を言うなら受けなければ良かったと言われてしまってお終い。

 

彼女の自宅の周辺は路上駐車している車がない。道幅が狭いわけではないのだけど、車を停められるスペースがなく、車に乗っての張り込みができない。

 

私たちは、やむなく車を停められる場所に置き、立って張り込みをしていた。

「これ。目立つね…。」

「目立つね。東洋人が、雨の中☔️」

 

時間の問題だろうと思った。日本でさえ、住宅地に立っていたら通報されて職質される。

ここはニューヨーク。

 

…撃たれるかも…?

 

 

そうはならなかったが、かれこれ6時間ほど張り込んだが、不思議な事に誰も出てこない。

少し、嫌な予感もしてきた。

 

「まさか…。」H君が言った。「同じホテルに宿泊してるなんて事、ないよね…。」

 

「僕も、それを考えていたんだ。別に同じ部屋に宿泊しているとは限らない。別の部屋に宿泊してたら、後で彼の部屋か彼女の部屋で会うなんて事も自然にできる。」

 

「だとしたら、彼女の部屋だね。」

 

「うん。その方が関係者に見つかりにくい…。」

 

「それ、いやだね。」

 

「うん。最悪だ。」

 

二人とも黙りこくった。やる気がなくなったわけじゃない。どうしたものかと考えている。

でも、どうするのかは、ここまでくると答えは一つしかないわけで。

 

「後手後手だけど。」

 

「そうだね。戻ろう、ホテル」

 

私たちはマンダリンホテルに戻って、彼をキャッチする事に決めた。

それにしても、まだ彼女に会えない…

 

明日は最終日…というか、猶予3日間というこの調査。実は3日目は、依頼者の予算の都合で、午前中までしか調査ができない。

 

何故なら、依頼者が既に私たちの航空券を買ってしまっていて、そのフライト時間が、明日の16時頃なのだ。レンタカーを返したりして、14時にはJFK国際空港に行かなければ間に合わない。

 

焦りは高まるばかり。

果たせるかな。不貞の証拠撮り…。

 

~次回につづく(2020/03/22頃 掲載予定)~

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