なかなか会えない…
が、会っていないのだから、彼だって…
さて…どうしたものか。
H君とホテルに戻って機材など荷物を部屋に置いた後、ブルックリンのBARでどうしたものかと二人で思案していた。
「不味いね…。」
「そうだね…。」
思案していたものの、二人の間にほとんど会話はない。
何せ、3日間しか猶予がないのに、もう1日な過ぎてしまったのだから。
マンダリンホテルの張り込みにも苦心するだろう。
徒歩で出られた場合、正面からだけとは限らない。しかも、ロビーに誰でも入れるわけではないようでセキュリティが立っていて、正面は入ろうとすると、セキュリティが部屋のキーを見せろと言う。
一度、トイレを借りようとして止められて断られた。公衆便所を使えと言う。
ショッピングモールのような施設と隣接していて、2階?3階あたりから繋がってゲートがあるのだけど、そのゲートもキーがないと通れない。
正面と二箇所を張らなければならないけど、他に出入口がある否かが不明だ。
「どうだろう?」H君が言った。「相手の女の住所はわかってるんだよね。女から追ってみたら?」
確かに女の住所は分かっている。でも、まだどんな場所か見に行ってないので、それに時間を費やすのは時間の無駄遣いにならないだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇
そんな事を私が言うと、Hは言う。
「奥さんから貰った日程表からすればさ、明日は昼過ぎから夕方までホテルで打ち合わせでしょ。女と会うなら夕方から夜という事にならない?」
「そうか。」私も相槌を打って「午前中に女の家に言って、女をキャッチできなければホテルに戻って本人を張れば良いか。」
「そうそう。どっちにしてもさ、ギャラは一緒なんだし。時間は関係ないよ。結果を出せば良いんだから。」
そう。今回の依頼者は、予算があまりないからどうしてもやって欲しいとせがまれたけど、やり方は全てお任せすると言っていた。
だからと言って結果を出せなくても仕方がない等という考えには全くならない。
確かに3日間で結果を出すには厳しい現状であるけれど、やれる方法を全て試せるのは、任せてもらったからできるのであって…
任せてもらったというのは、それは信頼であって、その信頼を裏切るわけにはいかないから、ベストを尽くしたくて…
それで…何か偽善者みたいに思えてきた。
「偽善者にはなりたくないね。」H君は言った。「全てベストを尽くして、結果を出さないと。」
「そうだね。明日は早朝から動こう。女の家に。」
私たちは店を出てると、晩飯を探した。もう夜中近いからレストランのようなところは開いてない。ホテル方面に歩いて、ふと遠く目をやると、小さな看板に灯りが点いている。
近くまで行くと、小さなパン屋だった。
ピザパンのようなものや、サンドイッチ類もあった。とりあえず食べられそうなものを買ってホテルの部屋に戻り、さっさと食べて寝たものだ。
◇ ◇ ◇ ◇
そういえば、この案件の季節を言い忘れたが、当時自分たちを撮った写真を見ると厚手の上着は着てないが、長袖に軽めのコートを着込んでいる。日付を調べると10月であったようで、確かに朝晩は少し寒かった記憶がある。
そんな季節の早朝4時に、私たちは起きて相手女性の住所をめざした。
と書いていて、また思い出してきた。確か朝から雨が降っていた。
そして、午前6時頃、相手女性の住所地に着いた。グーグルマップのストリートビューであらかじめ見ておいたので、ある程度は状況は分かっていたが、現地に着くと意外にわかりにくいものだ。
日本でも写真に写っていた状況と周囲の建物が変わっていたりするくらいなので、外国となればなおさらだ。
それでも、彼女のアパートはさほど時間を要せずに判明した。それでわかった事だが、誰かとシェアしているみたいだ。表札に間違いなく、彼女の名前がアルファベットで表記されている。その隣に別の人物の名前があるのだ。
「男性かな?」
「そんな感じだね。」
シェアといっても、室内がどのようになってるのかわからないので、その関係は判然とはしない。
しかし、そんなわけで、私たちは張り込みを始めたのだった。
~次回につづく(2020/02/23頃 掲載予定)~