こんな依頼ありました「 マンハッタンで会いたい」vol.5 ~ 最終章(前編)

こんな依頼ありました「 マンハッタンで会いたい」vol.5 ~ 最終章(前編)

13時ころ、ホテルに戻った私たちだったが、日中のニューヨーク市街は昨晩とは違っていた。

とにかく人が多い。車も多い。車を停めて監視する場所がなかなかない。

やっと停められる場所を見つけて監視が始まった。

「まだ会議中だよね。」

「うん。会議が本当ならね…。」

私のその一言で、また二人は黙りこくった。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

時間は無情にも過ぎていく。

その時、私たちの車の前方から黒人女性の制服警官が歩み寄って来た。小太りで愛想の悪そうな警官だ。

「ここ駐停車違反なのかな。」

「英語で何て言ったら良いのかな。」

「すぐどきます、って。」

「だから、英語で。」

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

警官は私たちの車の前まで来ると、特に何も言わないし、窓を開けろとも言わない。

「何やってんだろね…」

その時、「あっ!マジで!?」

警官は何も言わずに違反切符を私たちの車のワイパーに挟んで、何事もなかったかのように去って行った。

「おい!」と呼んだか、「Hey!」と呼んだかは憶えてないが、こっちの呼び掛けにも応じずに、さっさと行ってしまった。

「これ、どういう事!?」私は言った。〟だって、乗ってるのに。何も言わずに切符きるの!?」

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

あとでアメリカ人の友人に聞いたが、ニューヨークでは、ある場所、ある一定の時間帯は、運転手が乗っていても違反は違反。うむを言わさずに違反切符を切るらしい。

海外では日本とは全く違う慣習がある。いまでこそ海外での仕事が多いので、このあたりは心得ているものの、当時はそこに気がついていなかった。〝郷に入らば郷に従え〟という事なのだ。

ツイてない…。切符には英語で何やら書いてあるが、要約するとこういう事だ。

〝記載されたURLにアクセスし、クレジットカードで罰金を払え〟

なんとまあ、合理的な国…アメリカ合衆国。

当然、この罰金は依頼者には請求できない。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

やむなく、私たちは車を少し離れた停められる場所に駐車して、立って張り込みを続ける事になった。

結論から言うと、この日の成果はこの違反切符だけ。

夜になっても、ホテルから外出する本人は確認する事が出来なかった。

焦りは頂点に達した。何せ、残された時間は、明日の朝からせいぜい昼ごろまで。

私は、これまでの経緯を依頼者に電話して説明した。気の毒ではあったけれど、少ない情報の中、ベストは尽くしていた。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

依頼者は怒ってはいなかった。

「すみません。こちらも、情報が少なかったし、何よりも日程が厳し過ぎますね。」

そう言ってくれたが、電話の声でもわかるくらい落胆を隠せない様子だった。

「明日、飛行機を変更して明後日に出来ませんかね?」私は言ったが、その分の費用やレンタカーの延長料金、宿泊代など、これ以上は無理だと依頼者は言う。

「わかりました。」私は言った。「とにかく、最後まで諦めずにやってみますよ。運が良ければ…」

依頼者も、お願いします、という事で通話を切った。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

…運が良ければ…

そう私は言ったが、今日の違反切符150?といい、運は向いてくるのだろうか?

(ああ…何とか…マンハッタンで会いたい…)

私たちは、肩を落としつつ、自分たちのホテルに戻った。

 

~次回 最終章(後編)につづく(2020/05/24頃 掲載予定)~

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