~危険な依頼vol.6~
とはいっても、昭和通りに出てきたウィンダムの運転手も、ちょうど僕と鉢合わせしので驚いた様で通り過ぎて行きました。
その際、運転手の顔を確かに見ました。
“あの”男でした。
もともと、彼らの実行部隊の潜伏先を割ってから始まったようなものです。
あの時、依頼会社の寮から尾行した、あの若い男性。
僕は、すぐに昭和通り沿いの地下公共駐車場に隠れました。
どうしたものか…
とりあえず、車を取りに行くのにはリスクが伴うので、この地下駐車場にいた方が良いのだけど、ずっといるわけにもいかないので、仲間に連絡をして迎えに来てもらう事に。
地下で待つ事、30分くらい…
迎えが来ました。
この時、迎えに来てくれた人が、今は東京ベイ調査事務所東東京Officeの代表の根本氏です。
根本氏の車で、とりあえず秋葉原に向かい、少し夜が遅くなるのを待って、自分の車を取りに行きました。
この日の事を考えると、不安になったのは自分の事ではありませんでした。
当時、娘がまだベビーカーに乗ってましたから…1才とか、そんなもんだったと思います。
彼らに自宅を知られてますから、万が一、妻子に何かがあるといけないと思い、とりあえず妻子を妻の東北の実家に帰す事に。
…あ、この事は、妻の両親やご家族には知らされていないと思います。
今だから言える話かも(笑)
妻がご両親が心配するので言えなかったようです。
妻子を東京駅まで送ったのを、よく憶えてます。
これから、一人で奴らとの攻防戦が始まるはずでした。
ところが、元請けの当時の社長から電話があり、急遽、秋葉原で会う事に。
「本当にすまない。」
と妻子の交通費をポケットマネーで渡されて言いました。
「あんたも、暫く、東京にはいられないだろう…」
「そうでもないですよ。」
僕は言いました。
「妻子がいなければ…ってか頭にくるから、仲間を呼んで挟みうちにしてとっ捕まえてやろうかと思ってるんですよね。(笑)」
「バカな事はやらない方がいい。」
「まあ…そうですけど。」
結局、揉めるわけにはいかないのです。
僕の役割は、こういったトラブルを自分のところで止める事で、間違っても元請けまでトラブルがいかないようにする事。
けど、今回の場合は僕には全く落ち度はなく、依頼会社が自分たちで動いていた結果が問題なのと、元請けがそれを察知できなかった事が問題で、言ってみれば元請けの営業サイドに問題があったのです。
それでも、僕は元請けの当時の社長に恩義がありましたし、返しきれないくらい世話になった人ですから、「自分のところで何とか止めます。」と言って有言実行したまでです。
その社長も現在は引退して、いまや引き継いでいる人物が仁義のない男なので、ある事がきっかけでお付き合いはなくなりましたけど、その人が担当だったら、守りたくなかったですね(笑)
話が逸れましたが、その社長の計らいで、翌日から新潟ひとり出張となりました…
…新潟。
妻子も東北の実家。
元請けの社長の計らいで、とは言っても遊びに来たわけではなく、
これまた、とあるパチンコ店での経営陣と、謀反を起こした経営陣の親族との争い関係…
その首謀者とされている男の行動確認。
ほんと、そんなんばっかです(笑)
これは、またそのうち話をする機会があるかも知れません。と、いうのも、この案件も今回初めてではなく、以前から長~い案件でして、今回は久々に来たのです。
一週間くらい、行動確認をしましたが、今回の依頼内容はさほど難しいものではなく、新店舗で対象人物が誰を呼んでいるのか?接触する人物らと車両ナンバーを全て撮影するだけというもの。
さて、一週間はあっという間に過ぎ去り…
そろそろ、東京も落ち着いているだろう頃に帰る事となりました。
一応、念のために夜遅く自宅に帰りました。
妻子は、まだ実家に帰したままなので僕一人です。
久々に我が家のベッドでゆっくり寝て、翌日、別件があったので事務所に向かうために自宅を出ました。
…出ました(笑)
いや、出たというのは、
…奴…です。
自宅の前を、スーッと、あのウィンダムが通り過ぎたのです。
(呆れた…まだ来てたんだ…?)
僕は車に乗り、急いで幹線道路に出ました。
すると、やはり後をついてきます。
ほんと…諦めの悪い奴らです。
市川駅の近くまで来て、僕はコインパーキングの駐車場に入りました。
地元ってのは有利なもんで、その駐車場は裏から、人間ひとりだけ通り抜けて出られる出入口があり、僕は奴に気付かれないように車をおりて、その出入口から徒歩で出ました。
歩いて表に出ると、ちょうど国道14号線ですが、ウィンダムが路肩にハザードをたいて停車しています。
僕が出てくるのを待っているのでしょう。
ふと、僕の後ろからお巡りさんが自転車で現れました。
(よしっ。)と僕は思って、警官に声をかけました。
「すみません、あそこに止まっている練馬ナンバーのウィンダム、ずっと僕の事をつけ回しているので、職質してもらえますか?」
「職質はいいけど…」
警官は言いました。
「その結果とか、内容は話せないですよ。」
「もちろん。」僕が笑って、
「ただ、叩けば何か出ますよ、絶対に。車検だってあるかどうか。」
と言うと、警官はすぐに自転車でウィンダムの方に走って行きました。
すると、ウィンダムは突然発進して、物凄い勢いで東京方面に走行していきました。
警官は途中まで自転車で追いかけて行きましたが…
まぁ…追いつかないでしょうね…?
僕はその隙に車を取りに戻って、京葉道路から事務所に向かいました。
他に立ち寄る場所があったので、昼くらいに銀座に着いて、駐車場に車を停めてから事務所に歩いて行きました。
東銀座の方から歩いて、二丁目の14番地の角から、念のために事務所の前の通りを、そぉ~っと確認しました。
…いるのです…ウィンダムが?
困りましたが、事務所に入るのを見られるとまた面倒臭いので、この日は会う予定の人に連絡をして、別の日に変更。
が、元請けから連絡があって、今度は愛知県に飛べという。
もちろん、奴ら関係の仕事でした。
今度は何かと言ったら、愛知県の地裁で依頼会社の社長が、今回の係争の関係で愛知県の某地裁に行くのだという。
その際に、相手方のある人物が来るから、その人物を尾行して、愛知県での奴らの潜伏先を割り出せというのです。
何とも…まだ終わるつもりはないらしい…どちらとも。
(vol.7 最終回(6/2頃掲載予定) につづく)