こんな依頼ありました「骨折すると痛い」2

こんな依頼ありました「骨折すると痛い」2

バンコクは、とにかく交通量が多い。特に日本と違う点はバイクの数だ。

左からでも右からでも容赦なく追い抜いてくる。

日本なら、ウィンカーを出せばある程度、後方のバイクなどは注意してくれるものだけど、

ウィンカーを出しただけで、その動作をしなければ、あっという間にすり抜けてくる。

 

バンコクで交通事故が多いのは有名だ。

でもノットホムはタイ人だし、普段からバンコク市内も走ってるベテラン。

対象者が乗るBMWは先頭車両で、交差点の中心に右折のウィンカーを出して直進車が途切れるのを待っている。

(※タイは日本と同じ左側通行、右ハンドル)

 

「なかなか右折できないですね。」

「そうだねこのままだと、行けるかな?」

信号が黄色に変わった。

「これ、不味いな。」と私は言って、ノットホムの様子をチラリと見た。

ノットホムは余裕なのか、まだ私たちの後ろについている。

信号が黄色から赤に変わると同時にBMWは右折した。

それに続いてワゴン車が右折しようとしたが、流石に私たちの車は交差点に進入する事ができない。

その時、ノットホムのバイクが私たちの左側を追い抜くと交差点に進入し、右折しようとした。

進入には余裕があった。

「よし!」と、私が言ったか言わないかの、次の瞬間。

ノットホムが宙に舞った。

「えーっ!?」と、私は叫んだ。

ノットホムのバイクは、急加速して右折した時、路面の凸凹か何かに引っかかり、吹っ飛んだのだ。

どうだろう。5メートルは宙に飛んだように見えた。

交差点付近の車両は、とりあえず皆んな止まっているか徐行しているかだ。

 

それでも、倒れたバイクも宙を舞ったノットホムも路肩の方に滑り寄ったから、他の車両はゆっくり側を通行して行く。

そんなこんなのうちに再び信号が変わり、私たちはゆっくりと交差点に進入。

この時は難なく右折できた。少し先を見てやると、その先の信号の手前でBMWが路肩に寄って停車している。

どうやら、コンビニがあって、男性か女性かのどちらかは確認できないけれど、どちらかがコンビニに寄っていたようで、

丁度、コンビニから出てきてBMWに乗り込んだところのようだった。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

「良かった。」私は言った。「コンビニに寄ってたんですね。助かりましたよ。」

「ノットホム、大丈夫かな?」

K氏は言い、それで私も路肩の方に目をやった。

「意識はハッキリしてるようですな。」

「うん。」K氏が言った。「ありゃあ、脱臼か何かかな?」

「ホントだ。何か反対方向に曲がってるみたい。」

仕方がないのでK氏を降ろし、私は単独で車両尾行を続ける事にした。

 

その後、BMWは取引先らしい会社に1社立ち寄り、真っ直ぐ帰社した。帰社したのは14時頃だった。

立ち寄った会社名を依頼者に報告すると、それは間違いなく依頼者の取引先であった事がわかった。

ノットホムの思いも寄らぬ事故はあったけれど、初日にしては上出来。

対象者らが帰社してから、私はすぐにK氏と電話で連絡を取った。

「どうだった?」

「ええ。1社だけ立ち寄って帰社しましたよ。依頼者に連絡して報告をしましたが、ビンゴだったようです。」

「それは良かった。」

「で。」私はノットホムの状況を聞いた。「ノットホムはどんなですか?脱臼か何かでしたか?」

「骨折みたいだよ。残念だけど、明日からは無理だね。」

「骨折!?」

「うん。手術らしいよ。」

何て事だ

(骨折って痛いんだろうな。)

正直、私は生まれてから今まで骨折をした経験はない。

幸いな事に、複雑骨折ではなかったので手術をしてから1週間から2週間程度で退院できて、それからリハビリ。

完治には1年弱くらいだろうという。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

今回の調査は、その後、数日間実施して、対象者らが8社ほど営業に回った事を確認したが、

その内何社かが依頼会社の取引先であった事が判明して無事に終わった。

私は日本に帰る前に、ノットホムが入院している病院を訪ねた。

思いのほか、ノットホムは元気だった。タイ人の通訳を交えて会話をして、またの再会を約束し、私は帰国の途についた。

さて。日本に帰ると、すぐに別件の調査が待ち受けていた。

帰宅した翌日からの調査で、内容は再び浮気調査だった。

いつもの事であるけれど、少し違うのは、自社のスタッフが全員現場で埋まっていて、私のパートナーがいない事だった。

しかたがなく同業者で、業務委託契約を結んでいる、謂わば〝外注さん〟にパートナーをお願いする事になったわけだけど、

その外注さんが初対面の人だった。

とはいえ、10年選手の調査員と聞いていたし、やる事は全て分かっているはずだから特段、気にも止めなかった。

ところが、この外注さんと組んだ事で、この後起きる出来事は、流石に私も予想していなかった。

 

~次回につづく(2021/03/28頃 掲載予定)~

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