~全てを失う男~Vol.3
彼は何故に専用通用口からその会社に入ったのか
少なくとも、ただの営業ではないはずです。
ですが、まぁ…得意先で、社内の人と懇意であれば、普通の営業さんとは違う扱いをされていても不思議ではありません。
とは言っても、彼が自分の会社にこの会社への訪問は申告していないのが、やはり引っかかりましたが…
僕らは、一階のエレベーターホール付近で監視を継続しました。
しばらくして、彼が一階のエレベーターホールに姿を現したのですが、彼は鞄も持っていないし、上着も着ていない。
なので、また戻るという事です。
彼は一階のコーヒーショップでコーヒーを買って、外の喫煙所だ煙草を吸うと、ビル内に戻りましたが、エレベーターホールには向かわず、一階の隅の方に向かい、鉄扉を開けて中に入って行ったのです。
僕らは、その鉄扉を開けて中に入る事はできません。
何故なら鉄扉には、
《当ビル関係者以外、立入禁止》
と貼り紙がされていたからです。
“当ビル関係者 ”とは、どういう意味なのか
彼は、“当ビルの関係者”という事になるのか…
“当ビルの関係者”という事は、このビルに入っているテナント(会社)の関係者って事になる。
…なるほど、つまり、そういう事なのです。
彼が出入りしている会社は、彼とそこまでの関係にある…という事だと…
(これで、アウトだな…)僕はそう思い、受件元の取引先に報告しました。
依頼の指示事項は、彼が帰宅するまで、という事でしたので、僕らは彼がこのビルを出た後も尾行を継続しました。
正直、例えば浮気調査などは、被害の飛び火は子供であったり、相手の配偶者であったりと、ある程度は個人間の問題ですが、
会社の場合は、彼の行動が会社全体に関わる問題で、大変な数の人々に迷惑をかける事になり兼ねないのですから、彼を本当に許せない人間だと思いました。
ところが、彼を帰宅まで尾行していくうちに、少し同情の念が湧いてきてしまったのです…。
(つづく;2018/10/27頃掲載予定)