その日は現地に宿泊する事にした。
安ホテルを予約してチェックイン。
そういえば食事もまだだったので、夕飯をとりながら打合せをしようという事になったのは20時ころになってからだ。
ホテルを出たものの、「さて…。」と飲食店を探した。
辺りは真っ暗で、微かに遠くに灯りがポツポツと見える。
「この川沿いを行けば、何となく行けそうですね。」
私はH氏に言って、二人で歩きだした。
川沿いをゆっくりと歩く。右手側には川、左手側には山林。
山林とは言っても、どちらかといったら雑木林に近い感じで、山というほどでもない感じだが、何しろ辺りは真っ暗なので、どの程度の深さの雑木林だか検討もつかないので山にも見える。
「あれ?」
途中で私はH氏に言った。
「これ、こちら側だと、どんどん街灯りから遠ざかっているみたい。少し戻って橋を渡らないと。」
「ほんとだ。そうですね…。」とH氏は言って、今度は右手側になる山林を見て呟いた。
「何か、夜の山って不気味ですね…。」
「うん。そうですね…。まさかとは思うけど、こんなところで自殺してたりして…。」
「近すぎません?街から。」
「確かに。」
そんな話をしながら橋を渡ると、なんて事なかった。
一軒だけだったが、ラーメン屋がポツンとあった。
「ここにしましょう。」私は言った。
店に入って驚いた。
こんなポツンした佇まいのお店が多くの客で賑わっている。
が、外人だらけだ。北欧系?中国系?そんな人種が入り混じっている。
H氏と餃子や一品料理を頼んで、ビールを一杯ずつ頼んだ。
「少し整理しましょう。」私は言って、グッとビールを半分くらい一気に飲んだ。
「僕はね、何かやっぱり腑に落ちないんですよ。」
「どのあたりがですか?」
「どのあたりって…」私は言った。
「まず、あの依頼者…何かあまり焦ってない気がして…。だって、もしも僕だったらですよ。妻が理由もわからず失踪した…。まあ…理由がわからない…そう依頼者は言ってましたよね。」
「ええ…。」
「あんなに冷静にいられるかな…と思って。」
「内心では冷静ではないかもですよ。」
「確かにそうかも知れないけど。でも、失踪して約2週間ですよ。しかも、その間…SNSに~不可解な妻の失踪~なんてタイトルで、何か推理小説の謎解きみたいな内容を載せてた。」
「え?何ですか、それ。」
H氏は知らなかった。
私は、依頼者のSNSでそれを見た。それでも、そういう内容を載せながら、多くの人に情報を呼びかけていたから、、情報を呼びかけるための気を引くためかも知れない。
「いずれにしても…。」私は言った。
「僕なら、もっと必死になるし、傍から見ても心配になるくらい…そう…仕事だって手につかないはず。」
H氏は黙った。
そして、ようやく口を開いた。
「じゃあ…これは事件で、その重要人物が、依頼者である夫だと?」
私とH氏は顔を見合せ、黙り込んだ。
そして、ほぼ同時に言った。
「まさか…ねぇ…(笑)」
~Vol.⑥につづく(2019/03/31頃 掲載予定)~