車の中は、会話は少なかった。
それにしても、警察の協力が得られないとなると絶望的にも思えた。
◇ ◇ ◇ ◇
何しろ失踪した彼女は、手掛かりになり得る情報…つまり免許証から保険証から銀行カード、クレジットカード…あらゆる物を置いていってるのだから、その痕跡が殆ど残らない。
どうしようかと流れる景色を見ていたが、依頼者家族は意外にも私ほど絶望感はないようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「何か、お弁当でも買って行きましょうかね。」
そう、おばあちゃんが言うと依頼者が、
「この先に、ほかほか弁当あったっしょ。」
と指を差して、車はその国道沿いにあった弁当屋に停まった。
「河村さんは何が良いですか?」
「いや、私は結構です。」
「遠慮なさらないで。」
「いえいえ、私は昼はあまり食べないのですよ。その分、朝にしっかり食べるもので。」
「それでも、お腹は空くでしょう?」
「いやいや仕事柄、昼など食べる暇がない事もあるので慣れてますので、私に構わず皆さんお食事されて下さい。」
依頼者とおばあちゃんは顔を見合わせたが、
「そうですか…。では私たちは買って来ますので…。」
と言って車を降りた。
◇ ◇ ◇ ◇
私も煙草が吸いたかったので一緒に車を降りた。
依頼者家族は弁当屋の中に入って弁当を選んでる。
少しすると店内から実次女だけが先に出てきた。
「どうも。」
私は実次女に何となく言った。
「しかし参りました。正直、警察があそこまでだとは…。」
「そうですね…。」
実次女はそう言って、チラッと店内の依頼者とおばあちゃんの様子を見た。
「あの…こんな話をしても役に立たないと思うのですが…」
「何でしょう?」
「父の事なのですがね。まあ…父というか…」
「ああ…」私は察した。
「実のお父さんではないですものね。」
「ええ。それで…」実次女が言った。
「実は私、あの人と母が再婚する時、猛反対したんです。」
「え?」
正直驚いた。とはいえ、娘の立場からすれば驚く事でもないのだが、仲睦まじい家族に思っていたので実次女から私にそんな事を聞かされるとは思ってもいなかったからだ。
「河村さんって…」実次女が続けた。
「危ない人たちの調査もやってくれるんですか?」
「危ない人?」
「実は、母の事なのですが、昔若い頃に暴走族みたいな人たちとの関わりがあったようなのです。」
「暴走族?」
「ええ。◯◯連合ってあるじゃないですか。」
「ああ…はい。」
「母は、どうやら、その人たちと親しかったようなんです。」
「そうなんですか? …」と私は言ったが、すぐに否定した。
「仮にそうだったとしても、今回の失踪と関係はないように思えますが…。」
「昨晩とか父とかと話をしているうちに、母はその時に付き合っていた男がいて、その男と出て行ったのではないか…なんて言う話になったのですよ。」
「本気で言ってます?」私は言った。
「それなら保険証とか免許証とか、ましてや現金とかも置いていく必要があります?」
「でも…」実次女言う。
「ああいう人たちって意外とお金には困らないらしいですよ。…っていうよりも、かなりお金を持っているって聞いた事あります。そうすると特に保険証や免許証が無くても、お金だって無くてもやっていけると思うんです。」
「いやいや…ちょっと待って下さい。そうだとしても現金をわざわざ置いていかなくても良いと思いませんか?少し不自然ですよ。」
「お金やカードや、そういう物を置いて行ったのは、“もう帰らない”という母の強いメッセージかも。」
「それは確かにそうなんだと思います。」私は言った。
「帰らない…そのメッセージは間違いないと思います。けどそれは…やはり言い難いけど命を絶つ…というメッセージ性の方が強い気がしますが。」
「そうですかね…。」と実次女はジッと私を見つめた。
そして言った。
「でも、河村さんは私たちから話をいろいろと聞いておっしゃってたじゃないですか?」
「何を、ですか?」
「自殺する理由が見つからないって。」
「あ…。」
確かにそうだった。ヒアリングの中で、失踪する理由も自殺する理由も、私には見つける事ができなかった。
それなのに、“自殺する”可能性を常に考えていた。
それは、鞄に一纏めにされた所持品…その状況が一番の理由だったから…。
けれど、確かにヒアリングの中に引っかかる内容があった。
その時の彼女の行動が、どういう意味を持っていたのか…
~Vol.⑩につづく(2019/06/28頃 掲載予定)~