「失踪人」こんな依頼がありました〜Part 9 Vol.⑭最終回

「失踪人」こんな依頼がありました〜Part 9 Vol.⑭最終回

ついに…彼女が見つかった。

けど、こんな形で発見されるのは、ある種、自分でも恐れていた事だった。

やはりどこかで、こうなるのだろうと思ってもいた。

でも、依頼者である夫からメールがあった時、ハッとした事は、今でもよく憶えている。

夫からのメールには、確かこうあった。

『◯◯市警察から電話があり、妻と思われる遺体が発見されたので確認して欲しいとの事でした。私は明日の一番で◯◯市警察に向かいます。』と。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

◯◯市警察…。あの時、私が行った、あの警察署だ。

あの時、私は面会してくれたが相手にしてくれなかった刑事に対して捨ぜりふを、こう吐いた。

「楽しみにしてて下さいよ。」…と。

その通りになった。あの時の若い刑事はどう思っているだろうか?今の心境を聞けるものなら聞きたいものだ。

次の日、依頼者は◯◯市警察に行って、その遺体が妻である事を確認した。

依頼者によれば、遺体のそばに依頼者がプレゼントしたiPod touchが落ちていたそうだ。

それから、ひざ掛けのような物もあったとか。

それからは依頼者と電話で話すという事はなかった。全部、メールでのやりとりになった。

彼女の死因は、“睡眠薬を飲んでの凍死”であったという。

これを以って、警察は“自殺”と断定した。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

“凍死”? 正直、驚いた。私は夫に何か変わった事はなかったのかと聞くと、返ってきたメールに気になる点があった。

警察によれば、彼女の肋骨にヒビが入っていたという。

私がそれを依頼者に指摘すると、依頼者から、

『警察によれば、ちょっと転んだだけでもヒビは入るとの事で怪しい点はないそうです。』と返信があった。

なるほど、そんな事もあるのかも知れない…それにしても…と思った。

一番気になった事は、死亡推定日時だ。

だって、彼女を生きて探し出す事ができなかったし、私が◯◯市に捜索に来てから、どのくらいで亡くなったのだろうかと、ある種、罪の意識がないわけでもなく、うしろめたさがあった。

けど、罪の意識を感じなくても良い事を知った。

何故なら、彼女の死亡推定日時は、彼女が失踪した3日後くらいであったのだから。

つまり、依頼者である夫が私のところに来た時には、既に彼女は亡くなっていた事になる。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

私はレポートを作成した。彼女が亡くなってしまったとはいえ、本件の捜索に動いていたのは私だけで、警察は何も捜索はしていない。

警察は彼女が見つかって“自殺”と断定したわけだが、私の捜索過程たけは知っておいてもらいたいと思った。

レポートには、捜索から現在に至るまでの不審点を中心に、様々な人々から取材した内容も記載して依頼者に提出した。警察に提出して下さいとコメントを添えて。

私が警察に提出するわけにはいかない。だから依頼者に託したわけだ。

依頼者が提出したか否かはわからない。ただ…依頼者である夫は、私にこう言った。

『もう、妻は亡くなったのだから、これ以上はいいです。』

事実上、私は“解雇“され、調査は終了した。

それでも、私が今でも気になっている事…それは、“本当に自殺だったのだろうか?”という疑問だ。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

最後に気になった点を挙げて、この話は終わりにしたいと思う。

一つ…死因だが、睡眠薬を飲んで凍死?

私は驚いた。そんな自殺方法があるんだ…と。つまり、睡眠薬を飲んで眠っている間に、冬の山の中にいれば眠ったまま気がついたら凍死する…?

だとすれば、彼女はそれを計算に入れて自殺した?随分と、緻密な自殺方法だ。

※画像はイメージです。実際の物とは関係ありません。

それに、それが可能なら、痛い思いをして死にたくないと思っている人には朗報と言っても良いだろう。だって、寝ている間に死ねるのだから。

自殺をする人が、そんな計算づくで死ねるだろうか?

一つ…肋骨にヒビ?これは何を意味するのか?依頼者によれば、警察は転んで、その時に打ったのだろうと。

一つ…彼女の発見された場所だが、実に自殺の名所らしからぬ場所だ。駅から徒歩でも行ける場所の山林。私がH氏と◯◯市に来て、夜に食事をしようと思って川沿いを歩いたが、道を間違えて戻る時に通った山林だ。つまり、あの時、私たちは彼女の遺体があった山林を横目に歩いていた事になる。

しかし、何でそんな近くの山林に?

一つ…皮肉にも、私が調査の依頼を受けた時には、彼女は亡くなっていた。この意味は?

もっと核心にせまったような不審点を挙げたいところだが…これ以上は止めておく。

いずれにしても、依頼を受けた最初から最後まで疑問だらけの失踪だった。

確かなのは、この時点で私の仕事は終わってしまったという事。

けど、毎年2月になると必ず想い出す。

そして、こう思う事がある。

あれは、やっぱり…

“自殺ではなかったのではないか?”…って。

~『失踪人』お終い~

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