「失踪人」こんな依頼がありました〜Part 9 Vol.⑩

「失踪人」こんな依頼がありました〜Part 9 Vol.⑩

依頼者家族から聴き取った、彼女の日々の行動は、

彼女が失踪する理由を明確に示すものを見つける事ができなかったが、

唯一、引っかかる行動が彼女の失踪当日の朝の会話だった。

 

       ◇    ◇    ◇    ◇

 

彼女が長女の長男を引き取って養子にしていたという事は以前話した。

 

長女夫婦の幼児虐待が理由であったが、その長男も小学校一年生になっていた。

 

この日の朝、おばあちゃんが長男の勉強をリビングで見ていた。

 

正確にいうと、この長男にとって彼女がおばあちゃんであって、このおばあちゃんは、ひいお婆ちゃんという事になるが、

 

彼女が養子にしているので法的には彼女が養母という事になる。

 

いやはや、ややこしい話であるが、これは余談。

 

長男がお婆ちゃんに勉強を見てもらっている間、彼女は黙って同じリビングのテーブルに座り、その様子を見ていたという。

 

これは、お婆ちゃん談。

 

この時、彼女は外出する旨を家族に話しており、その荷物(鞄)は玄関に置いてあったそうだ。

 

鞄は、家族の記憶によればトートバッグのような鞄だったとか。

 

彼女は時間を気にしている様子で、しばらく長男の勉強を同じテーブルで傍から見ていたが、しばらくたって、

 

「そろそろ行く。」というような事を行って、玄関先に向かったという。

 

この時、長男の肩に手を置き、

 

「いいかい。お婆ちゃんのいう事をちゃんと聞くんだよ。」

 

と言ったという。これは、直接聞いたわけではないが、長男談だそうである。

 

そして、出がけ間際にお婆ちゃんが、「何時ころに帰って来るの?」と聞いたそうだが、

 

本人は何か苛立っている様子で、

 

「そんな事、行ってみなければわからないわよ!」

 

と強い剣幕であったという。これはお婆ちゃん談。

 

       ◇    ◇    ◇    ◇

 

さて、ここで疑問なのだが、彼女は時間を気にしていた。

 

◯◯市に向かうのに、特急電車に乗るためか、その時間を気にしていたとも考えられるが、

 

その◯◯市は確かに地方の観光地なのだが、比較的、頻繁に電車は出てるし、特急に乗らなくても、

 

そんなに時間がかかるようなところでもない。

 

自殺をするために覚悟の家出だとしても、そんなに急いで行く必要があっただろうか?

 

それから、覚悟の失踪に特急電車の切符を予め購入していたのだろうか?

 

この時点で、失踪するつもりであったとしても、自殺をするには冷静過ぎはしないだろうか?

 

何か思いつめて、覚悟の失踪を計画してたとして…

 

私が家族の聴き取りをした記録には、その前兆さえ窺えない。

 

とはいえ、本人の心の中は本人にしかわからないから、こればかりは聴き取りの内容で安易に判断する事は難しい。

 

『…行ってみなければわからないわよ!』

 

という彼女の捨て台詞とも取れるセリフ…。

 

これは、何を意味しているのだろう?

 

帰って来れれば、帰ってくるつもりであったのか…

 

ただ、ただならぬ状況があって、帰って来たくても、帰って来れない可能性があった何かがあったのか?

 

そう…養子にした長男には、「古い友人に会いに行く。」と言っていたそうだ。

 

これは、単に長男を安心させるために伝えた目的なのか…

 

それとも、本当に会う予定の“誰か”が存在したのか?

 

いずれにしても、彼女はその日を最後に帰宅する事はなかった。

 

       ◇    ◇    ◇    ◇

 

「行かないって言ってたのだけど、」依頼者である夫が言った。

 

「いやね…実は昔の暴走族関係の同窓会みないな案内が来てたらしくて、

 

『行ってもいいか?』みたいな事を私に妻が言ったので、私は行って欲しくないって言ったんですよ。

 

そしたら、『行かない。』って妻は言ってたのだけど…』

 

「彼女は実際は行ったわけですね?」

 

「あとで分かったんです。」実次女が言った。

 

「ある時、母が実は行ったんだ、って私に言ったんです。」

 

「そうらしいんですよ。」と依頼者。

 

「で、河村さん知ってます?」実次女が続けた。

 

「その◯◯連合って、ほら、有名な俳優さん。もと、◯◯連合の関係の暴走族の総長だったという…」

 

「ああ…◯◯さんですよね。有名な話ですから知ってます。」

 

「わたし、その人のプロダクションのホームページから、メールで彼にコンタクトを取ってみようかと思うんです。」

 

「え?やめた方が…」私は彼女を制した。

 

「だって、彼はもう関係ないでしょう?今は立派な俳優だし、演技にも定評がある。」

 

「でも、来ていたらしいですよ。」

 

「どこに?」

 

「その会合に。」

 

「え?…まさか?」

 

「いいえ。」実次女は言った。

 

「母が言ってましたから。久々にその会合で顔を合わせて、彼の方から母のところに来て挨拶したらしいですよ。」

 

「挨拶?」

 

「ええ。」と実次女は言ったが少し考え、そして言った。

 

「彼が、『姐さん、ご無沙汰しております。』って。」

 

「………。」

 

 

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~Vol.⑪につづく(2019/07/07頃 掲載予定)~

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